棚物集成

棚物集成

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桃山の、江戸の名匠たちの
今はなき至芸の数々100点を収録
昭和初期刊行の幻の名著復刻版

昭和の初めに東京美術倶楽部で棚物の展覧会が開催されたことがある。
私はこれだけの棚の名品が一堂に会することは、そうそうはあり得ないことと思い、連日通ってスケッチをしていた。
そして会場で主催者の山中定次郎氏に会った折りに、これらの棚がこのまま四散するのを惜しみ、刊行を強く推めた。
それが実現したのが、昭和八年の「棚物集成」である。

これは国際的な古美術商として有名な山中商会の山中定次郎氏が収集した棚から、優れたものを百点選んで、一点ずつ単色ながら細部もわかるように大きく撮影して、一葉ずつ印刷した図録である。
別冊の「棚物集成解説」には、当時、茶道界の権威であった木津宗泉宗匠により、一点ずつ寸法・ 地製法・加飾法、あるいは棚物の沿革・分類が正確にして簡潔に記述されており、著者の苦心が察せられる。

棚は仏に捧げる供物を載せる卓や経机が転じたといわれるので、我が国の起源は仏教伝来にさかのぼるほど古くなる。その後の日本文化の発展や生活様式の変遷に応じて各種の棚が生みだされたので、その種類は複雑だが、基本となるのは仏や先祖など尊敬する人々をまつるための厨子棚、主人の手もとの必要品を置く書棚、夫人の装身具などを置く黒棚の三棚で、昔は嫁入り道具の中心であった。

私は正倉院宝物の黒柿両面厨子などの古典を研究して、古くは棚は壁に接して置くものではなく、前と後の両面から使えるようになっており、これは機能的なことで、現代にも生かすべきことだと考え、自分の作る棚には取り入れている。このように棚の変遷を知ることは、直接に制作に役立つ。

昔から時代や作家を代表する工芸作品には棚物が多く、げんに今日現在においても力倆があり、意欲的な漆芸家や木工家は、「体力のある今のうちにこそ。」と棚の連作に励んでいるほどである。

今では稀構本となっている「棚物集成」の復刻は、私の推めが刊行の動機となったこともあり、従来から望んでいたことで、この度それが実現したことは、たいへん喜ばしい。先に述べたように実技者の制作に役立つことは云うまでもないが、この図録に収集された百点の棚のうち、戦災や戦後の混乱をくぐりぬけて今なお残るものは、極めて稀であろうと考えると、工芸や茶道に関心のある愛好者や研究者にとっても、幻の名品を知る唯一つの方法として貴重なものであると思う。

人間国宝 松田権六